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賞味期限が切れていた。
あの冷蔵庫は俺を殺すつもりなのかとトイレに篭って文句と便を垂らした。
所詮相手は機械、管理する自分が悪いなんてことは分かりきっている。
それでも八当たりしなければ我慢できない。
腹を壊してトイレに篭っている今まさにこの時間、普段信じもしない神に祈り先祖を拝んでしまっている。
じっと痛みを耐えることが出来ず、太股の上で手を組んで只管呪詛のように戯言を呟く。
ごめんなさい、だとか。
お願いします、だとか。
賞味期限を守る、だとか。
借りた金も返す、だとか。
漸く痛みが引いて幾分かやつれた身体を引き摺ってトイレから出た。
目の前には忌まわしき冷蔵庫。
畜生、と悪態を吐いてそいつから期限切れの食材を全てゴミ袋にぶち込んだ。
食材だけに贖罪しろ、なんて苦笑も貰えないギャグを考えつつどうやっても使い切れない10個パックの卵も全てぶち込む。
中で殻が割れても良いように袋は二重にしておいた。
そして冷気に当たったからか、また腹が痛み出す。
ああ、畜生。もう一度呟いてトイレのドアを開けた。
ケツを丸出しにして唸る俺は他の動物と同じだ。
文明も文化も投げ捨てさせる。
何かに縋るような気持ちで耐え続けなければならないのだ。
それが自業自得だとしても。
目を細めるような快晴の昼であろうと白熱灯が照らす小さな個室で俺は動物になる。
太股の上で手を組み、名も知らぬ神や先祖、果ては爺さんや婆さんまでも言葉にして唸る。
俺は今日、冷蔵庫に殺されたのだ。
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