[越智木高校第二文芸同好会-24-]

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 暫くして読了したタケ先輩はぽつりと呟いた。
「すごいのな、伊織は」
「凄い、ですか」
 そこまで言われるものなのだろうか。
「それなのに二文で――ああ、そうか」
 一度だけ耶弥先輩へ視線を落とすがすぐに僕へと向き直る。そして小声で囁いた。
「この二つ読んだのは俺と耶弥、冬子以外にいる?」
 指差したのは先ほど渡した選考落ち原稿だった。
「両方は居ませんけど――つまらない方なら都賀先輩が」
「そうか。とりあえず春と岩舟には見せないで」
「え、ダメなんですか?」
「ダメ。とりあえず月例会が終わるまではね」
「はぁ、分かりました」
 頷いておく。何らかの思惑があるのだろう。例えば、月例会までは僕の力量はお楽しみ、だとかそういうものだろう。
「うん、よし。それじゃ活動を始めるか。やー、起きて」
 ぺしぺしといつものように眠る耶弥先輩の頭を叩く。それで空気はいつものものに変わった。
「んー、みんな集まったの?」
 眠そうな耶弥先輩に恋人が頷いて答え、それを見て急に会長顔となり立ち上がった。
「みんな、集合」
 一言で全員が集結した。
「さて、今日の活動日だけど、例年踊り今年度の活動計画を作るよ。プリントを作ったから一人一枚ずつ取って」
 無言でタケ先輩がプリントを配る。本当に保護者と言うか補佐役だ。
「ほぼ去年と一緒だけど、何かやりたいことでもある?」
 受け取ったプリントを読む。月ごとに区切られた枠は空白が目立つ。月例会と学校祭以外は何も――あれ、枠外に文芸部の部誌への寄稿と書かれている。すぐさま都賀先輩は挙手をして発言した。
「会長、この寄稿って今伊織君がやっていることですか?」
「うん、そうだね。春ちゃんが良ければ春ちゃんもやっていいんだよ?」
「いいえ、遠慮しておきます」
 都賀先輩は冷静に答えた。
「まぁ、いおりんは分からないかも知れないけど、他の面子は去年と一緒ってことで」
 ちらほらと返事が聞こえる。だけど、タケ先輩だけはじっと考え込んでいた。
「……やー、本当に良いのか?」
 ぽつりと呟いた言葉が広すぎて不釣合いな社会科教室に広がった。
「タケ……うん、いいよ」
「健之さん、何か問題があるんですか?」
「それは――」
 タケ先輩が苦々しい表情を作った。その瞬間に勢いよく扉が開かれた。一気に全員の注目がタケ先輩からそちらに移る。
 そこには肩を上下させている宇都宮先輩が居た。
「耶弥、どういうつもりよ!」
 激昂している、のだろうか。言葉はただ荒々しく、向けられていない僕にまで棘が刺さるような感じがした。
 だけど、耶弥先輩はいつものように澄ました顔で「どういうつもりって、このままだよ、とーこ」と答えた。
 その答えに宇都宮先輩は更に顔を強張らせた。つかつかと耶弥先輩に歩み寄ったかと思えば、そのまま襟を掴んで引き上げた。息が掛かるような至近距離まで顔を近づけて、宇都宮先輩は言い放つ。
「馬鹿なの、貴女!?」
「うん、馬鹿だよ。私は我慢なんてしたくないから」
「そんな事で……そんな事だけで二文を潰すつもり?」

(C)啓  無断転載、引用はご遠慮願います。