[越智木高校第二文芸同好会-23-]

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「こんにちは――と、一番最後みたいですね」
 社会科教室には僕と部長さんを除く全員が揃っていた。各々好きなように手広な教室で過ごしていた。
「おー、伊織。遅かったね」
 タケ先輩に返事をしつつ会話するためにその対面に座った。
「ええ、ちょっと文芸部に」
「あぁ、こってり絞られてきた?」
「いえ、そんなことはありませんでしたけど……」
 いつものように膝枕で寝ている耶弥先輩の頭を撫でつつタケ先輩は驚いたように声を出す。
「あれ、何も言われなかった?」
「あー、誤字はないと言われたくらいですかね」
 後は僕から聞いた感想程度だ。本当に何も言われていない。
「あっれー、冬子は一番厳しいのにな――プロットとかある?」
「これでいいですか?」
 つい数分前に部長さんに読んで貰った原稿を渡す。
「ほー、土日でこれだけ書いたのか。どれどれ」
 無言で読み始めたので邪魔するのもどうかと思い窓辺まで歩いて中庭を眺める。教室棟に挟まれた中庭は手入れが杜撰というのか、ところどころ雑草が伸び放題になっている。桜の花びらも混じり、若草の色合いに若干のアクセントを加えては風で舞っていた。
 ちょっと目を離して教室を見る。都賀先輩は机に座り宿題でもしているのだろう、教科書とノートを広げていた。慶介さんは反対の机で文庫本らしきものを読んでいる。体格も相まって本が豆本のように見えて少しおかしかった。
「伊織、これってさ」
「なんですか?」
 大して量も無い寄稿なのですぐに読み終わったタケ先輩から声が掛かる。近づきつつ会話を続ける。
「本当に二文でいいのか? 確かに冬子が欲しがるはずだ」
「評価しすぎですよ」
 席に座って漸く向かい合う。
「話はそう珍しくも無い、無難っちゃ無難なんだよな。意表を突くでもない、本当に無難な話」
「そうですね、そういう話ですから」
「だけど、これ、気持ちいいな。このパターンの話かよ、流れ読めるっつーのって話なのにストレス感じない。ここまで押さえ込めるものなのか」
 タケ先輩は口を手で押さえながらぽつりぽつりと呟くように言う。
「一体どうすりゃこんなの書けるのか分からない、なんなんだこれ、逆に気持ち悪いくらいだ」
「気持ち悪い、ですか」
「あ、ああ。褒め言葉だけどな。しかしなんでまた二文に――いや、文芸部の選考を落ちるんだ」
「それは――ああ、丁度いいことに選考落ちしたものと、それを手直ししてつまらなくなったものがありますけど、読みます?」
「読む」
 即答したタケ先輩は貪るように僕原稿を読み始めた。再び手持ち無沙汰な時間が出来たが、タケ先輩の真剣な空気に席を立たずにただじっと待った。

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