[越智木高校第二文芸同好会-22-]

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 家に帰るとやることは頭の中身を動かすことだった。放課後からまともに動かなかった人物たちは再び好き勝手に話を作っていく。荒唐無稽に綴っていくが、気にしないでおく。
 そして使えそうなエピソードがあるとそれを書いていく。ただそれの繰り返し。そうしていくことで、人物の動き、話し方がある程度決まってくる。扱いに困るようなことも無くなる。自己流だから効率は悪いかもしれないが、これしかしらないのだからいいとする。
 ある程度数が出来たら二行のあらすじからプロット的なものを作る。始まりからどんな理由で結末に向かうのか。どうしてその理由なのか。その理由に至ったのはどうしてか。
 書きだしたエピソードの文章量から考えて、荒く文章量の目安をつけつつ作っていく。作り終わったらすぐに書き出さずにプロットを見直す。何度も何度も。頭の住人に劇を演じてもらいつつ、細かい部分を追記しておく。ここまでで、ほぼ完成と言っていいだろう。
 後は頭の中での劇を再現すれば良いだけの話だ。
 プロット作りが終わった頃には既に夕食の時間だった。帰ってきた時間を考えると四時間もしないくらいで作ったことになる。これなら締め切りには余裕で間に合うだろう。早いにこしたことはないだろうし、日曜も頑張ってみるか。
 土曜、日曜と書くことで終わってしまった。そして――月曜日。
 放課後になって真っ先にやったのは荷物の整理ではなくてメールを書くことだった。宛先は宇都宮冬子――文芸部の部長さんだ。
 返信を待ちつつ荷物を鞄に詰め込み、月曜なので集まりがあるという二文へ向かう特別教室棟への渡り廊下で携帯が震えた。進路を文芸部へと切り替えて歩き始めた。
 部長さんは既に部室に居るということで、ノックもせずに部室に入る。
「いらっしゃい」
 暖かな声とは裏腹の、部長さんと部員数名の鋭い視線が突き刺さるが気にしない。
「もう書けたんだっけ?」
「まだ終わってませんよ。四割程度というところですが、肉の量の問題ですよ」
 部長の席に座る宇都宮先輩に原稿を渡すとその場で読み始める。四割、と言っても殆ど完成と言っても相違ない。後は細かい加筆修正をするくらいで完成してしまう。もっとも、それはプロットの見直しだとかを含めなければの話だ。
「うん、誤字は無いみたい」
「正直言って、どうです?」
「どう、って?」
「そうですね、どれくらいつまらないですか?」
「その観点から言うと、そこそこつまらない、かな」
「そうですか、ありがとうございます。では後はこれを思いっきりつまらなくするだけですね」
「ええ、全力でお願い」
 そう、残りの作業は全てつまらない作業だ。つい数日前の記憶が蘇る。提出した話を思いっきりつまらなくした。それで評価された。それの繰り返しだ。
「あとこの原稿返すわね」
 脇に積まれていた紙の束の頂点に置かれていた僕の原稿が返される。
「これ、何に使ったんですか?」
「うん? 呼び水に、かな」
 意味深に周りを見渡す部長さん。けれど、僕程度がそんなのに使われるとは、到底思えない。いや、そうか。
「図ったんですか?」
「さぁ、何のことだか」
 しれと答えられる。あの発言、どうやらいい意味で解釈するようだった。ともすると、この人の会話は色々と裏を読む必要がありそうだ。
「まぁ、頑張りますよ」
「うん、頑張って」
 鋭い視線でハリネズミになった身体を引き摺って退室した。一つ深呼吸をして、二文へと続く階段へ歩き出した。

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