[越智木高校第二文芸同好会-20-]

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 始まった呼び方会議。会議するようなものかとも思うがどうでもいいことにする。こうして歓迎してくれていると思えば嬉しいことだ。
「えー、いおりんは反対多数によって却下されました。それでは……春、何かある?」
「え、私ですか? 書記ですよ」
「書記だからって意見を言わなくて良いって決まりはないぞ」
「分かりました。それじゃ、大平下君で」
「……春、流れ分かってて言ってる?」
 何かを言いた気な間々田先輩の視線が都賀先輩に刺さる。だが、それでも都賀先輩はしれと答える。
「言ってますよ。そもそも私は呼びにくいと感じたことありませんし」
「ダメだなぁ、それじゃ。こうして親睦を深める一歩を決めているときにそれはないだろ。岩舟のことは慶介って呼び捨ての癖に後輩は君付けで距離感ありありだ」
「慶介は昔なじみだから仕方ないんですよ」
 やれやれといった感じに答える都賀先輩だが、間々田先輩は尚も口を緩めない。
「それにしても、俺は健之さん、冬子は冬子さんって名前で呼んでるだろ? せめて伊織君くらいになるべきじゃないか?」
「……分かりましたよ。伊織君で行きます」
「うん、それでいい。俺は伊織って呼ぶし――岩舟はどうする?」
「俺は……伊織、でいいかな?」
 体型とは違う、細かな尋ねる視線に頷く。
「じゃあ伊織で」
「それじゃやーは……起きろ」
 間々田先輩が平手で葛生先輩の頭を叩く。なんとも言えない小気味いい音だった。
「んー、なにー?」
 目を擦りながら漸く起き上がった葛生先輩に短く間々田先輩が流れを教える。
「ん、じゃあ――いおりんで」
「……だそうだが、伊織はどう?」
「正直、この年ではキツいです」
「だそうだ。お姫様、年相応の呼び方をお願いします」
「んー、伊織ちゃんで」
「伊織ちゃんって女っぽいですよ」
「えー、私岩舟君をがんちゃんって呼んでるよ?」
 岩だからがんちゃん、と自信満々に葛生先輩は言いのけた。岩舟先輩を見ると慣れたから、と言ってくれた。
「……もうどっちでもいいです」
 諦めた僕に「よろしく、いおりん」と声を掛けられた。
「私のことは耶弥ちゃんって呼んでいいよ。やーと呼んでいいのはタケだけだからね」
「遠慮します、葛生先輩」
 はっきりと葛生先輩にアクセントをつけた。
「あー、苗字はトラウマあるからなぁ。葛生だからクズって呼ばれたことがあるから、出来れば名前で呼んでほしいな」
「はぁ、了解しました、耶弥先輩」
「うん、よろしい」
 満足気に頷いた後、再び間々田先輩に寄りかかるように寝てしまった。今更だが、二人は付き合っているのだろう。
「そっかそっか、伊織からの呼ばれ方も今のうちに決めておくといいよなぁ。名前で呼ばれると親しくなれるし、俺はタケでいいや」
「タケ先輩?」
「あいよ」
 間々田先輩改めタケ先輩に続いて都賀先輩、岩舟先輩の呼び方が改められた。都賀先輩はそのままで、岩舟先輩は慶介さんとなった。どうやら先輩と呼ばれるのが嫌なようだった。

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