[越智木高校第二文芸同好会-16-]

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 大平下伊織の返事の後、ページ数、規定書式、サイズ、締め切り、そしてテーマを伝えた。その他細々としたことは後で伝えるので、と携帯のアドレスを交換して帰ってしまった。
「部長、本当にあの人でいいんですか?」
 何度か伊織を出迎えた眼鏡の男子生徒がまだ座ったままの冬子に問う。
「渡良瀬君、良い質問ね」
 ずれてもいない眼鏡を正して、その眼光を強める。
「大平下君はね、きっと何も変わらない。評価もされないでしょう。評価と言う点では葛生耶弥の方がいいわ」
「……では、どうして?」
「私と同じで、でも逆を選んだから、というのもあるわね」
 二年前を思い出す。同じ頃、冬子自身が悩んだことを。
「でも、それ以上に喧嘩を売られたからよ。あそこまで挑発されたら意地でも買いたくなったわ」
 未だに覚えている。二年前と同じ言葉で否定されたのだ、忘れられるはずもない。葛生耶弥につまらないと言われたこと。大平下伊織につまらないと拒否されたこと。
 耶弥ならまだ言っただけで可愛いものだ。だが、大平下伊織は違う。わざわざつまらないと書いた原稿を読ませて、その上で言いのけた。これは挑発に他ならない。
 そして、喧嘩とも取れた。
「喧嘩、ですか。部長には似合わないですね」
「そう? これでも陰湿に好戦家よ。ただ、売ってくれる相手がいないだけ。そして勝てる喧嘩しか買わないだけ」
 唇の端を微かに歪める冬子だが、幸運かその表情は渡良瀬には見えなかった。
「確かに、陰湿ですね」
 それきり渡良瀬は元の場所へ作業に戻っていった。捻くれた自分に自嘲気味の笑みを作る。本当、陰湿だ。
 大平下伊織は与えられた条件でどこまでやるか、それは楽しみである。あの程度で、あれ程で、どこまでやってくれるのか。
「本当、楽しみね」
 締め切りにどんな原稿が出てくるのか。どう修正するか。どんな話が聞けて、どんな議論になるのか。プロット段階から見てみたい気もするが、それはそれ、編集者ではないのだからその辺りは部員も含めて自由にやってもらっている。
 まあ、不安があったら聞いてくるでしょう。
 その時の為の台詞を用意しながら冬子は座り続けていた椅子から立ち上がり、部長のスペースに戻った。
 ああ、そう言えば月例会用の原稿もあるのだった。思い出し、部長の席で始めたのは二文用のネタ出しだった。

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